Apple Watchが腕時計として認められるには?

2015年4月、それは世界で衝撃的なデビューを果たしました。おそらく21世紀を代表する革命的なプロダクトとして期待され、同時に大きな失望も買ったものです。それが「Apple Watch」でした。

Apple Watchとは何だったのか

Apple Watchが世に出た時、多くの人はこう思ったはずです。「これが次のiPhoneになる」と。つまりiPhoneがiPodをリプレイスしたように、Apple WatchがやがてiPhoneをリプレイスするだろうと思ったのです。

ところが蓋を開けてみるとビックリ、Apple WatchはiPhoneなしではそもそも使えないし、Bluetoothの通信範囲内に常にいないといけないという不便さで、人々が想像していたものとは全く違っていたのでした。

腕に巻く通知センター

Apple Watchの中で機能らしい機能として使えたものは、iPhoneの通知機能だけでした。まさにiPhoneのロック画面に表示される通知センターが小型化し、腕に巻き付いただけというイメージです。

Apple Watchでメッセージの返信等もやろうと思えばできますが、かなり面倒です。これは一体どういうシチュエーションで使うのでしょうか。Apple Watchの近くにはいつもiPhoneがいるはずなので、それを使って返信した方が何倍も早いはずです。

そもそも腕時計とは

ここでそもそも腕時計とはどういう役割を果たすものなのか振り返ってみたいと思います。

腕時計はもともと懐中時計を腕に巻き付けたのが起源でした。そうすれば片手が空いて便利だったからです。これで人々は何かをしながら時間を確認できるようになりました。そうです、腕時計とはそもそも「確認する」ためのツールなのです。

スマートウォッチもこれと同じです。懐中時計のようにポケットから取り出して確認していたスマホの「通知」を腕に巻き付けて確認できるようにしたものです。だからスマートウォッチで通話やメールなどの作業をやろうというのがそもそもナンセンスなのかもしれませんね。

現代における腕時計の役割

そして現代において腕時計とはもう一つの役割があります。それはステータスの象徴です。あなたが例えば初対面の人と会うとき、腕時計というのは1秒でその人がどういう人物なのかを説明する象徴として機能しています。

腕時計が単に時間を確認するツールならば、安価で高性能なモデルにしか価値が見いだされないはずです。ところがこの「象徴の役割」を持つことによって、高価でブランド力のある腕時計に価値が見いだされるようになったのです。皆こぞってロレックスやパテックフィリップを欲しがるのはそういう理由からです。

Apple Watchの果たす象徴とは

では「Apple Watch」はどのような象徴として機能するのでしょうか。今街中でApple Watchを着けている人を見ると、その人は新しいもの好きな人であると認知されます。あるいはアップルの製品が好きなのかもしれません。もっと世界に目を向けて見ると、IT企業で働くプログラマーにもApple Watchの愛用者が多いそうです。総論すると、Apple Watchが象徴するのは、新しいもの好きか、アップル信者か、IT関係の職についている人ということになります。

このようにApple Watchはことシリコンバレーのような場所では愛されているようです。一方でウォール街のような場所ではまだまだ愛されていないようです。金融系の仕事につく硬派な人は歴史のある腕時計を選択する傾向があります。誰も知っているというネームバリューと伝統的な信頼を重視するからです。

一方でシリコンバレーのワーカーはより新しく未来感のあるものを重視します。彼らの中にはApple Watchを手にする前は腕時計を着ける習慣すらなかった人も多いかもしれません。彼らはスマートウォッチを新しい腕時計として選択しているのでなく、新しいデバイスの一つとして選択したのです。

Apple Watchは伝統的な腕時計をリプレイスできるか

ここでApple Watchの今後の課題が見えてきました。それはApple Watchを伝統を重視するユーザーに売ることです。つまり信頼を金で買う層にApple Watchを受け入れてもらえるかどうかが今後重要なのです。

そのためには単なるブランド価値だけではなく、針のアナログ時計では果たせない決定的な付加価値が求められます。残念ながらいまのApple Watchにはその機能はありません。だからロレックスやパテックフィリップをリプレイスすることもおそらくあまりせん。

ですが、今後毎年のようにアップグレードを続けていけばチャンスはあります。止まらずに進化の道を歩み続けるのです、そうすれば進化の天井に達しているアナログ針時計を追い越せる日がやってきます。その日が来て初めてロレックスやパテックフィリップは必要なくなるのです。そのとき初めてApple Watchは腕時計として認められるのではないでしょうか。