日本のドラマが安っぽい5の理由!9割はカメラが悪い?
最近は、Amazon Prime Video、Netflix、Disney+などの定額制動画配信サービスの普及によって、「海外ドラマ」がより気軽に見れるようになりました。
人気海外ドラマには、「ブレイキング・バッド」、「ゲーム・オブ・スローンズ」、「ウォーキング・デッド」、「ペーパーハウス」、「ストレンジャー・シングス」、「ザ・ボーイズ」、「マンダロリアン」、「ウェンズデー」などがあります。
さらに、最近はアメリカ、ヨーロッパに加えて「イカゲーム」、「涙の女王」などの韓国ドラマも勢いをつけてきています。
そして、海外ドラマを見た後によく感じることが、「日本のドラマが安っぽく見える」、「映像がチープに見える」、「画質がAVみたい」、「なんかしょぼい」、「シンプルにつまらない」ということです。
もちろん、海外ドラマと日本ドラマでは予算が桁違いでCGもたくさん使われているというのもありますが、そこではないもっと根本的な部分に問題があると思います。
そこで今回は、「日本のドラマが安っぽい理由」について見ていきましょう。
日本のドラマが安っぽい5の理由
日本のドラマが安っぽい理由1. ビデオカメラで撮っている
1つ目の日本のドラマが安っぽい理由は、「ビデオカメラで撮っている」です。
日本のテレビドラマでは、ほとんどがビデオカメラを使って撮影されています。
「え?ドラマってビデオカメラで撮るものじゃないの?」と思う方も多いかもしれませんが、海外ドラマの撮影ではビデオカメラは使われません(1990年代頃までは使われていました)。
海外ドラマの撮影では、映画用の「フィルムカメラ」や、「デジタルシネマカメラ」で撮影されるのが一般的です。
例えば、「ゲーム・オブ・スローンズ」ではARRIのALEXAというシネマカメラが(参考: ALEXA wins the “Game of Thrones”)、「ストレンジャー・シングス」ではREDが使われています(参考: Netflix|人気作品はどんなカメラで撮影してる?)。
「なぜ海外ドラマの撮影ではビデオカメラではなくシネマカメラを使うの?」という理由は、シンプルにその方が画質が良いからです。
シネマカメラは映画の撮影用に作られたカメラなので、シネマカメラでドラマを撮ることで映画と同じクオリティの映像を作ることができます。
▲映画用に作られたシネマカメラは、ビデオカメラの何倍もセンサーサイズが大きいことに加えて、映画撮影用の質の高いレンズで最高級の映像を撮影できます。
▲映画用に作られたシネマカメラであれば、映像の被写界深度の浅い、いわゆるボケ味のある映像を撮影することができます。
また、シネマカメラはISO感度が非常に高く、暗所撮影に強いので、照明が暗めの暗いシーンでもノイズが乗らずに綺麗に撮影できます。
▲逆に、ビデオカメラは主にニュース番組などの報道向けに作られたカメラです。
報道用に作られたビデオカメラは、とっさの事件などでもフォーカスを外さず、確実に映像を収めることや、長時間の連続撮影に耐えられる耐久性に重点を置いています。
つまり、ビデオカメラのメリットは、シネマカメラよりも扱いやすく、フォーカスを合わせやすいことなのですが、その代わりに映像が安っぽくなるという最大の欠点があります。
そもそもビデオカメラは映画やドラマの撮影に特化した作りにはなっていないため、ビデオカメラでドラマを撮ると、どれだけ頑張ってもテレビ番組の再現ドラマのようなチープな映像になってしまうのです(あるいはカラオケのイメージビデオやAV)。
このように、シネマカメラを使ってドラマを撮影するだけでも、映像のクオリティが格段に上げられるのですが、なぜか日本のドラマではなかなかシネマカメラの導入が進みません。
なぜ日本のドラマでシネマカメラが使われないのかという理由は、おそらく予算の関係と、シネマカメラを使いこなすノウハウがないということが考えられます(ビデオカメラの何倍も操作が難しい)。
ですが、先進国でいまだにビデオカメラを使っているのは日本のドラマくらいではないでしょうか。
映像が素晴らしい日本ドラマ (地上波)
▲最近では、「大豆田とわ子と三人の元夫」というドラマでARRIのシネマカメラが使われていて、とても綺麗な映像に仕上がっていました(参考: ナックレンタル – カンテレ・フジテレビ系ドラマ 新番組「大豆田とわ子と元三人の夫」の放送がスタートします!… | Facebook)。
▲「アバランチ」というドラマも全編シネマカメラで撮影されてリッチな映像に仕上がっていたので、最近は少しずつ日本ドラマも改善されているようです(参考: Netflixで「アバランチ」を観ましたか?)。
▲2022年の「silent」は、良い感じに仕上がっていると思いました。
▲2022年の「エルピス」では映画「トップガン マーヴェリック」と同じソニーの「VENICE 2」が使われていたようです。素晴らしい!(参考: 『エルピス』大根仁監督ロングインタビュー 画期的な撮影から長澤まさみとの再タッグまで|Real Sound|リアルサウンド 映画部)。
▲2023年のドラマ「インフォーマ」の映像も素晴らしいです(参考: Netflixで「インフォーマ」を観ましたか?)。
▼主なシネマカメラ
- RED Digital Cinema | 8K & 5K Professional Cameras
- ARRI | Inspiring Images. Since 1917.
- 製品 | Blackmagic Design
- VENICE 2 | ラージセンサーカメラ | ソニー
- FX3 | プロフェッショナルカムコーダー | ソニー
- FX30 | プロフェッショナルカムコーダー | ソニー
▼映像の勉強には「Filmaker’s Eye」がとてもオススメです
日本のドラマが安っぽい理由2. 60fps
2つ目の日本のドラマが安っぽい理由は、「60fps」です。
日本のテレビドラマでは、ほとんどが60fpsで撮影されています(たまに30fpsもあります)。
一方で、海外ドラマでは24fpsで撮影されるのが一般的です。
そもそも「fps」とは、フレームズ・パー・セカンドの略で、1秒間のコマ数を表しています(フレームレートとも呼ばれる)。
このfpsの数値が高いほど、映像が滑らかでヌルヌルして見えるようになります。
ここで、「fpsは高い方が良いんじゃないの?」、「60fpsで撮ってる日本のドラマの方が良いのでは?」と思いがちなのですが、このフレームレートは高ければ高いほど良いというわけではありません。
例えば報道番組などの、”事実を伝えるもの”であれば、より肉眼で見る動きに近い60fpsが好ましいです。
また、スポーツ中継やゲームでは、素早い動きを確認しやすくなって迫力が増すので60fpsの方が効果があります(最近のゲームは120fps対応もあります)。
これら報道番組やスポーツ、ゲームは、細かい編集を繰り返すものではないということも60fpsが向いている理由になります。
それに対して、映画やドラマ、ドキュメンタリー番組などの”作られた世界を見せる”ものでは、肉眼の動きよりもカクカクした24fpsが効果的であるとされています。
この24コマという数字に至るまでは紆余曲折あって、映画が登場した頃は10コマや16コマで撮られていたものが、最終的に24コマがベストとして現在まで引き継がれてきています。
そして現代でも映画やドラマ、ドキュメンタリーが24fpsで撮られる理由は、シンプルに「映画っぽく見える」、「リッチに見える」ためです。
また、映画、ドラマ、ドキュメンタリーは細かい編集作業を繰り返さないといけないので、フレームレートを低くすることでレンダリング負荷を減らしてコストカットできるという効果もあります。
あとは、映画やドラマでは後からセリフを入れる「アフレコ」を行うため、フレームレートが低い24fpsの方がアフレコがバレにくいという効果もあります。
▲「ジェミニマン」という映画では120fpsで制作されているのですが、「映像がチープ」、「カラオケ映像みたい」と散々な評価をされています(上の動画は60fps)。
2022年の映画「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」は48fpsで制作されていますが、ドラマパートを24fps、アクションシーンを48fpsに切り替えることで安っぽく見えないようにしているようです(参考: アバター2はなぜ48コマなのか。HFR映画がもたらす視覚効果とリアリティ – AV Watch)。
このように、日本のドラマは60fpsで撮られているせいで、安っぽいチープな見た目になってしまっています。
ちなみに、シャッタースピードはフレームレートの2倍を目安に設定しましょう(参考: αで始める動画撮影 カメラの設定編|ソニー)。
※例: 24pなら1/48(48がなければ1/50)、30pなら1/60、60pなら1/120(120がなければ1/125)、120pなら1/240(240がなければ1/250)。
日本のドラマが安っぽい理由3. 広角レンズを使いすぎ
3つ目の日本のドラマが安っぽい理由は、「広角レンズを使いすぎ」です。
日本のテレビドラマを見ていると、レンズの画角が広いシーンが多いです(広角レンズを使いすぎ)。
それに対して海外ドラマでは、レンズの画角がより狭い標準レンズや望遠レンズで撮られてるシーンが多いです。
レンズの画角が広くなると、より多くの情報が画面に入り、映像に広さを感じるようになります。
そのため、街並みや自然などの風景だけを撮影する時には広角レンズは効果が抜群です。
▲しかしながら、広角レンズで人物を映すと、どうしても安っぽく見えてしまいます(コントっぽくなってしまう)。
さらに、広角レンズは歪曲収差という歪みが生じる問題があり、被写体との距離が近い時は使わないのが原則のようです(顔が歪んで見えてしまうため)。
そのため、基本的には人物を撮る時は広角レンズを使うと安っぽく見えたり歪んで見えるので避けた方がいいということになります(意図的な見せ方があるなら別です)。
▲一方で、標準レンズや望遠レンズになると、画面の情報量が減って、映像に狭さを感じるようになり映画っぽい見た目になります(参考: 「中望遠」レンズの特長とその楽しみ)。
まずは、人間の肉眼に近い画角と言われている標準レンズを中心に使ってくのが基本です(フルサイズの50mmレンズ、APS-Cの約33mm)。
さらに、標準〜望遠では圧縮効果によって背景が大きく近く見えることに加えて、フォーカスした部分の背景がボケる、いわゆる被写界深度を浅くできる効果もあります。
そのため、人物や物などを目立たせたい時は標準・望遠レンズが効果的なのです。
被写界深度を浅くするためには、フルサイズなどのラージセンサーカメラを用意し、レンズを50mm以上(目安)にズームし、絞り値をF2.8〜F4などの開放にしましょう(良いレンズを用意し、外で撮るときはNDフィルターを装着して絞らないようにしましょう)。
ドラマは登場人物の会話シーンを中心に構成されているので、標準・望遠レンズを中心に使っていくと、リッチで映画っぽい見た目に仕上がっていきます。
ここで重要になってくるのが、標準・望遠レンズを使うためにはシネマカメラが必要になるということです(あるいは一眼レフカメラ)。
ビデオカメラでも一応ズームをすることで標準・望遠のような撮り方ができますが、ビデオカメラはセンサーサイズが小さいのとレンズがショボいためどこまでいってもビデオ特有のチープな画質を抜け出すことができません。
とどのつまり、ドラマで標準や望遠レンズを使って撮影したいのであえば、ビデオカメラではなくシネマカメラを選択する必要があります(あるいは一眼レフカメラ)。
▲日本ドラマは画角の広いシーンが多く、背景にピントの合ったパンフォーカスで撮られることが無駄に多くあり、全体的に被写界深度が深い。
1カットで全体を見せる場面(クローズドフレーム)が多く、どちらかと言えば報道の撮り方に近い。そのため安っぽく見える。
いずれにしても、日本のドラマはカメラと人物の距離が近すぎるので、もっと離れた位置から標準〜望遠レンズで撮影しましょう。
▲海外ドラマは画角の狭いシーンが多く、背景をボカして撮られることも多くあり、全体的に被写界深度が浅い。
複数のカットを切り替えてアップを見せる場面(オープンフレーム)が多く、映画の撮り方に近い。そのため良い感じに見える。
▼こちらのレンズもオススメです
日本のドラマが安っぽい理由4. カラーグレーディングしてない
4つ目の日本のドラマが安っぽい理由は、「カラーグレーディングしてない」です。
「カラーグレーディング」とは、映像の色を調整して美しく見せるための編集作業のことです。
日本のテレビドラマでは、ほとんどこの「カラーグレーディング」が行われておらず、ビデオカメラで撮影した状態の色でそのまま出力されています。
海外ドラマでは、「カラリスト」というカラーグレーディングの専門職の人が必ず映像の色を調整しています(参考: Netflix本社訪問レポート。マーベルの人気HDR作品を手がけるカラーリストの仕事とは (1/2) – PHILE WEB)。
そもそもカラーグレーディングを行うためには、撮影時に色情報のデータを保存しておくことが必要です。
ビデオカメラは撮影したデータをそのまま再生することを想定して作られているため、色情報のほとんどを撮影時に捨てて圧縮してデータ容量をなるべく軽くしています(クロマ4:2:0とも呼ばれます)。
▲シネマカメラでは、色情報の全てのデータを保存できるRAW撮影・Log撮影が行えるため、編集時にカラリストが自由自在に色をいじることができるのです。
つまり、そもそもビデオカメラでドラマを撮影している時点でカラーグレーディングがまともにできないのです。
このように、ドラマで本格的なカラーグレーディングを行うためには、そもそもRAW撮影に対応したシネマカメラを使って撮影する必要があるのです。
▼主なカラーグレーディングソフト
日本のドラマが安っぽい理由5. センスが良くない (監督・演出)
5つ目の日本のドラマが安っぽい理由は、「センスが良くない (監督・演出)」です。
もしも、シネマカメラを使っている、24fpsで撮影している、標準・望遠レンズを使っている、カラーグレーディングをしているという上記の条件を満たしているのにも関わらずドラマが安っぽく見えるのであれば、それはシンプに監督・演出のセンスが良くないことが原因です。
いくら予算があって良い撮影環境を揃えたとしても、センスを金で買うことはできません。
もしもセンスのない人がドラマの監督や演出をする立場にあるのであれば、さっさとセンスの良い他の人に席を譲ってください。
また、カメラマンのセンスが良くない場合もセンスの良いカメラマンに席を譲ってください。
このようにして、スタッフをセンスの良いクリエイターに置き換えていくことで、自然とドラマのクオリティも上がっていくはずです。
まずはシネマカメラを導入しよう
このように、日本ドラマが安っぽい原因を突き詰めると、そもそもまずはビデオカメラではなくシネマカメラを使いましょうということになります。
もちろん、シネマカメラを使ってRAW撮影をすると、ビデオカメラとは比較にならないデータ量になるので、コストが増大します。
また、シネマカメラを扱えるカメラマンを雇う必要もありますし、RAW動画のデータを扱える人材やカラリストなども必要になってきます。
このように、ドラマのクオリティを上げるためにシネマカメラを導入しようとすると、制作費が増えるため今のテレビ局では実現が難しいのかもしれません。
そんな中、日本のドラマでもシネマカメラを使ってうまく制作しているところがあります。
それは定額動画配信サービスの「Netflix (ネットフリックス)」で、Netflixが製作した「全裸監督」や「今際の国のアリス」、「First Love 初恋」などではシネマカメラを使って撮影されています。
おそらく、今後はNetflix、Amazon Prime Video、Disney+製作による日本ドラマが作られていくことになるので、クオリティの向上に期待しましょう。
▼フルサイズのシネマカメラ「SONY FX6」はこちら
▼フルサイズのシネマカメラ「SONY FX3」はこちら
▼RAW撮影ができる「ATMOS NINJA V」はこちら
▼super35mmセンサーのシネマカメラ「FX30」もオススメです
最後に
今回は、『日本のドラマが安っぽい5の理由!9割はカメラが悪い?』についてご紹介しました。
このように、日本ドラマが安っぽく見える問題の9割はカメラが原因であると言えます。
もちろん、脚本や役者の演技なども問題になってくるかもしれませんが、海外ドラマでもひどい脚本や演技が下手な役者がいることは結構あります。
そう考えると、やはり見た目の第一印象としての”映像クオリティ”に問題があると考えるべきです。
ただし、日本のテレビドラマは放送しながら同時に次のエピソードを撮影して編集を行うというクレイジーなスケジュールで制作されます。
日本のテレビドラマはポスプロに充てられる時間が極端に少ないため、シネマカメラを使ってRAW動画の現像やカラグレを行うのは多分無理です。
となると、やはりポスプロに十分な余裕があるNetflix、Amazon Prime Video、Disney+などの動画配信サービスで、今後はクオリティの高いドラマが作られていくのではないでしょうか。
果たして、日本のドラマは今後どうなっていくのか、目が離せませんね。